風邪に対する考え方(5)厚生労働省が示した風邪に対する見解
2022.11.11 検査・治療
こんにちは。ドクターまこです。
今回は厚生労働省が発表した「薬剤耐性(AMR)対策について」を中心に、一般の方に知ってもらえるよう分かりやすくお伝えします。
抗生物質の不適切な使用
厚生労働省のホームページの「薬剤耐性(AMR)対策について」を見るとこんなことが書いてあります。
(以下・・・は省略部分で、強調したい箇所を太字に変更し抜粋した内容です)
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抗菌薬の不適切な使用を背景として、薬剤耐性菌が世界的に増加する一方、新たな抗菌薬の開発は減少傾向にあり、国際社会でも大きな課題となっています。
2015 年5月の世界保健総会では、薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランが採択され、加盟各国は2年以内に薬剤耐性に関する国家行動計画を策定することを求められました。
これを受け、厚生労働省において、薬剤耐性対策に関する包括的な取組について議論するとともに、・・・・・・・・・・
今後、「適切な薬剤」を 「必要な場合に限り」、 「適切な量と期間」使用することを徹底するための国民運動を展開するなど、 本アクションプランに基づき関係省庁と連携し、 効果的な対策を推進していきます。
*AMR (Antimicrobial resistance)
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抗生物質の不適切な使用とは、病院で医師が本来は必要がないのに抗生物質を処方したり、あるいは、患者さんが自己判断で抗生物質を中断したりすることを指しています。不適切な抗生物質の使用の代表として、「風邪」があると指摘しているわけです。たしかに風邪を引けば抗生物質、あるいは黄色い鼻汁が出れば抗生物質みたいに考えて処方してしまう先生がいたり、ひどくなる前に予防のために抗生物質を飲もうと考える患者さんがいるのも事実でしょう。
私も診察していて、 「先生、とにかく抗生物質を出してください!」とか「風邪引いたので抗生物質をください」とか「ひどくなる前に抗生物質を飲んでおこうと思って来ました」など、1日1回は耳にしています。確かに一生懸命治そうとする気持ちがあるのはとてもいいのですが、これらの説得には結構骨が折れるので、私としてはこの厚労省の取り組みは非常に有難いものと思っています。
また厚労省は、2020年までに経口抗菌薬(セフェム系、キノロン系、マクロライド系)の使用量については現在の(2013年と比べて)50%にするという具体的な削減目標まで掲げているので、国として、かなり本腰を入れているのは間違いありません。日本にいるとあまり実感はありませんが、グローバルな視点で見ると感染症が人類にとってかなり脅威であるということの表れなんですね。
一般の方向けに啓蒙するためのポスターなども沢山作成されており、そのポスターでも「風邪に抗生物質は効かない」ということが盛んに取り上げられています。
http://amr.ncgm.go.jp/pdf/lr-l4.pdf
抗生物質が必要なときとは
一方、このような働きかけによって、医療者側が抗生物質を出すことをためらってしまい、本当は抗生物質が必要な状態なのに処方しなくなってしまうケースも出現する可能性があり、より適正な判断が医療者側に求められているともいえるでしょう。また、厚労省は、「抗微生物薬(抗生物質のこと)適正使用の手引き(PDF)」というのも発行しており、そのなかで、注意したい点もご紹介します。
この手引きの中で、急性気道感染症の具体的な診断手順、処方、患者さんへの説明の仕方などが詳細に述べられています。中でも注目したいのは、12ページ目にある「図 3 急性気道感染症の診断及び治療の手順 」というところです。この図表によれば、 「風邪を引いたと訴えて来院した患者さん」のうち、抗生物質を処方して良いのは・・・
①「急性副鼻腔炎の中等症以上」
②「急性咽頭炎において溶連菌陽性」
③「急性咽頭炎においてRed Flagあり」
のいずれかということになっています。
ちなみに「Red Flag」とは、文字通り「赤い旗」ですから、危険信号ということで、「人生最悪の痛み・唾も飲み込めない痛み・口が開けられないほど痛い・呼吸困難」などの症状がある場合については、溶連菌検査の陽性陰性には関係なく、専門的(耳鼻咽喉科的)診察が必要である、と述べられています。
③の場合は、単に抗生物質を処方するだけでは問題は解決せず、外科的治療(メスで切開する治療)を考慮する状態であり、まさに上気道の外科である耳鼻科の出番ということになります。ここで、言いたいことは、風邪を引いたと思って来院した患者さんに対して、抗生物質を処方するのは耳鼻科がメインになるということなんです。これはまさに責任重大なことです。
以上、長くなりましたが、少々難しかったでしょうか?要するに、抗生物質が必要なときは躊躇せず処方させてもらうし、不要なときは不要であると明確な根拠を示したい!そんな診療を行いたいという思いを、伝えたかったんですよ。
はい、では、また~!